Gunosy MEDIADAYTOKYO

多種多様なメディアが集結するメディアの祭典『MEDIA DAY TOKYO』(主催・企画:PR TIMES、企画・運営:CINRA)。今年は5年ぶりに、7月20日にWITH HARAJUKU HALLにて開催されました。このイベントにGunosy取締役の西尾健太郎さんが招聘され、THE GUILD代表でnote社CXOも務める深津貴之さんとディスカッションを交わしました。テーマは「AIはメディアの味方か?敵か?メディアトレンドの変遷とこれから」。ジャーナリストで元バズフィード編集長の古田大輔さんをモデレータに、AIはメディアの未来をどう変えていくのか、専門家ならではの観点から議論を重ねました。

MEDIADAYTOKYO 西尾健太郎氏 古田大輔氏 深津貴之氏

AIは「守り」と「攻め」の両面で

セッションのスタートはここ数年で急成長を遂げているAIによるメディアの変化について。深津さんも西尾さんもそのインパクトの大きさは過去に起こった技術トレンドと確実に並ぶインパクトがある、と発言。

「私自身、昨年の6月という比較的早い段階から調査を開始していますが、その中で特に感じたのは個人の能力を引き伸ばす技術であるということです。コンテンツをつくる側にとってはレバレッジがかかる技術ですね」(西尾さん)

またメディア運営企業にとってAIは「攻め」と「守り」の両面から使いこなすべきであると提言。生産性を上げつつ、新しいビジネスが生まれるチャンスと西尾さんは語ります。

「組織のワークフローや事業のオペレーションなどLLM(大規模言語モデル)を活用することで生産性を高められるポイントはたくさんあります。それにより生まれた時間を新しい事業領域へのチャレンジに振り分ければさらなる成長機会の創出になるわけです」(西尾さん)

モデレーターの古田さんが深津さんにAI導入注目企業を聞くとスピード感ではMicrosoft社、オープンソース戦略でいいポジションを獲得したのはMeta社、と回答。さらに西尾さんは、Instagram創業者が手掛けるAIを駆使したニュースアプリにも注目しているとのこと。

さらに金融機関向けに開発が進む大規模AIモデルが話題のブルームバーグについて話が及ぶと

「ブルームバーグはTech企業。信じられない数のエンジニアを抱えていますが、同社のような企業が本気を出してくると多くのメディアは吹き飛ばされるかも」(古田さん)

いずれにしても安穏とはしていられない、というのが三者共通の見解でした。

Gunosy MEDIADAYTOKYO 西尾健太郎氏 古田大輔氏 深津貴之氏

一人にひとつのAI秘書という時代

ここで深津さんから「ほぼ確実なのは即時情報や一日の記事の量といった、これまでメディアが誇っていた経済価値はほぼゼロに近づく。一日何千記事あったとしてもその9割は購読者に読まれないという現実がある」と近い将来訪れる変化について言及。

21世紀中頃のメディアはAIによるパーソナライズがさらに進んで、ユーザーにとっての秘書的な立場で情報を選り抜き、必要なものだけをレコメンドしてくれるようになる、とのことでした。

この「秘書的な」というコメントには西尾さんも賛同。Googleカレンダーとネット上の情報を紐づけた上でGPTを回せばその日のMTGや会談に向けて読むべき資料が全部揃うサービスができるといいます。

「そこまで来ると一人にひとつのAI秘書、という時代が来ることになりますね。新しいビジネスの間口が広がるんじゃないでしょうか」(西尾さん)

Gunosy MEDIADAYTOKYO 西尾健太郎氏 古田大輔氏 深津貴之氏

「そうなると新聞社のサイトやテレビ局のサイトを見るのは機械になりますよね。人が直接アクセスしなくなるかもしれません。AIが必要な記事だけをスクラップしてまとめてくれるわけですからね」(深津さん)

ディスカッションが活発になるにつれ、モデレーターの古田さんも前のめりに。モデレーターというよりもスピーカーの一人として議論に参加されます。

「Gunosyは僕、サービス開始直後、10年ぐらい前に取材したんですよ。当時は20本の記事が送られてくるニュースレターサービスで、割と精度良かった印象があるのですが、AIであのサービスがめちゃくちゃ良くなる可能性ってあります?」(古田さん)

「その頃僕はまだジョインしていなかったので聞いた話からの想像ですが、当時はグノシーユーザーがテック好きな方に寄っていたので、情報もまとめやすかったのではないでしょうか。いまはユーザーも情報も個に閉じる傾向が強くなっている面があるので、逆にそれだけでいいのかという課題がありますね。そのあたりも解決するユーザー体験をつくるべきだと」(西尾さん)

Gunosy MEDIADAYTOKYO 西尾健太郎氏

「敵味方」より「使うか拒否するか」

白熱したトークセッションが進む中、いよいよ最後のテーマ「AIはメディアの敵か味方か」に入ります。よく言われるのがAIによって仕事が奪われる、ということ。AIが学習してよりユーザーに使いやすい形に情報を再加工して提供するようになるとメディア業界は滅びてしまうかもしれません、と古田さんが二人に水を向けます。

「技術の発展によって業界自体がなくなるという現象自体は、歴史上繰り返されてきたわけで。テクノロジーは要素に過ぎません。敵か味方かというより適用するか拒否するか。そっちのほうが重要だと思います。音楽業界しかり、カメラ業界しかり。だったら今のうちにどう使いこなすかが大事だと思う」(深津さん)

「僕も全く同意見。その上で小規模で動きの早いメディアにとっては都合がいいけれど、大きな規模のメディアほど不利かもしれません」(西尾さん)

「AIがリプレースできない最大の価値は、そこに人がいて取材するという物理的な要因。AIで仕事を効率化しつつ、実際に深い取材もできる記者とデータ活用に長けたエンジニアを揃えた少人数の組織が強い」(古田さん)

まだ微妙な間違いがあるChatGPTですが、戦うというよりはどう味方にするかと考えた方がいいというのは深津さんと西尾さんに共通する見解。しかも現時点での微妙な間違いも裏側でデータを渡せば解決するし、2024年以降は大部分でクリアになる可能性があると西尾さん。

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さらに深津さんはプロンプトも現在は一問一答だけどもうすぐ制限が取れ「信用できるソースのみで作ってほしい」や「終わったらメールで教えて」といったことも来年、再来年にはできるようになる、と言います。命令が下手な場合は指摘すらしてくれるようになるとも。

最後にまとめとして深津さん、西尾さんからひと言ずつコメントをいただきました。

「ドライな話ですが海外のAIプレイヤーがメインとしている分野は金融、医療、化学です。意外と報道メディアの優先順位は一段階小さそうな印象がある。彼らが本命で頑張っているうちにメディアの人が自主的にAIマスターになるのはひとつのチャンスではないかなと思いますね」(深津さん)

「ChatGPT含めてかなり話題になってますが実際に触っている人は意外と多くない。使い続けている人はもっと少ない。さらに工夫して仕事に組み込んでいる人はかなり少数です。深津さんのいまのお話にもありましたがこのタイミングで仕事、事業、メディアに組み込むことは未来をつくる上で非常に重要だと思います」(西尾さん)

「最終的に考えないといけないのはAIによって業界自体が吹き飛ぶかもしれないということ。ここは個人で考えるレベルを超えているので、最後、何かあればぜひ」(古田さん)

「ありえますよね。そのためにもメディアが人間しかできない付加価値を提供できるものはなにか見極めることが必要かと」(深津さん)

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「生成AIを含めて活用して自分の大切にしたいもの、届けたい価値に向けて上手く使っていくことが何より大事ですね。その結果、仕事の仕方やメディアのあり方、さらに世の中全体がよりよいものになるといいなと思っています」(西尾さん)

最後に会場から大きな拍手が送られて、セッションは終了となりました。ちなみにイベントには700名を超える申し込みがあり、オンライン・オフライン含めて非常に多くのメディア関係者が当セッションを視聴していました。

現在Gunosyでは新規事業開発室を新設『GunosyAI(仮称)』を用いたBtoB向け生成AIプロダクト開発に注力しています。今後のリリースにご期待ください!

投稿者 OjimaRyo