Gunosy 村田 浅井 奈須川

ニュースメディアにとってAI活用の最適解はどこにあるのか…そのひとつの回答としてGunosyがリリースしたのが「AIコメンテーター」機能です。今回はこの新機能の企画から開発、実装までを担った社内横断プロジェクト『withAI』の主要メンバーに集まってもらい、プロジェクト発足からローンチまでの舞台裏を語っていただきました。

【withAIプロジェクトメンバー:画像左から】

村田さん:技術担当(プロダクトオーナー)

浅井さん:メディアリレーション担当

奈須川さん:コンテンツ編成担当

Gunosy 村田 浅井 奈須川

テック企業としてAIの可能性を最大化させる

ーまずは今回のプロジェクトの概要を教えていただけますか?

村田:Gunosyがテック企業としてAIの技術的進歩にどう向き合うか、というテーマのもと立ち上げられたプロジェクトです。ニュースのキュレーションメディアにとってAIの活用は不可避といえるでしょう。ただし、どう使うかについては未知数。つまり私たちが率先して模索する意義があります。で、あればそのはじめの一步としてLLMを用いてニュース記事にコメントをつけるサービスにトライしてみよう、というのがそもそもの出発点でした。

まずは技術面からの実現可否をAIに取り組んでいるチームに確認。するとサービスとしてローンチできるクオリティのアウトプットは出せるとのこと。しかしそのまま自動でコメントを放出するわけにはいきません。まずLLMそのものが媒体社様にとってはセンシティブな話題ですし、著作権含めてクリアしなければならない問題が山積みです。そこで部署横断のプロジェクトで動かそうという運びになったんです。

ープロジェクトにおけるそれぞれの役割を教えてください

村田:私は主にプロジェクトの管理を担っています。あとプロダクトオーナーとして開発の方向性、あるいはサービスの価値の最大化に携わっています。ミッションの中にはマーケティングに関わる部分もあるのですが、これまでエンジニア一筋でキャリアを積んできたのでまったく未知の領域に挑戦する場面も少なからずありました。

浅井:僕はメディアとのリレーションを主に担当しました。AIがコメントするというサービスがメディアのどこに影響があるか、どうカバーできるか、あるいはどんなメリットがあるのか…ひとつひとつ記事を配信してくださる媒体社様に説明して、理解していただくのがミッションでした。

奈須川:私はコンテンツの品質管理です。絶対にNGな単語や内容を設定したり、アウトプットの改善を手がけたり。プロンプトのチューニングによってコメントとして出力されるものにどんどんブラッシュアップをかける業務に携わっていました。またキャラクターごとに異なる性格を反映させる取り組みも手がけました。

Gunosy 奈須川

ープロジェクトの規模感はどれぐらい?

浅井:毎回ミーティングに参加するコアなメンバーは10名ぐらいですよね。

奈須川:実際に手を動かしていたのはその中のさらに5名に絞られるかと思います。とにかくスピード感を持ってやれるような体制でした。実際に動きやすかったですし。

村田:立ち上がったのは2024年の春で、withAIステートメントを作成して5月ぐらいから人を集めていったんです。

ー浅井さん、最初に声がかかったときの感想は?

浅井:率直に言って面白そうだなと思いました。ただ媒体社様への影響は少なからずありそうで、そこは自分たちが橋渡し役として機能しなくては、と意識しましたね。プロジェクト内でもメディアリレーションの立場からの意見をしっかり伝えていこうと。

ーメディアへの影響、懸念点とは?

浅井:媒体社様が最も避けたいのは自分たちの記事がAIの学習に使われることなんですね。ここをいかに払拭していくか、が最大のテーマでした。そこで媒体社様には学習には使わない旨を徹底してお伝えしました。学習したモデルをアップデートして何か新しいものをつくるのではなく、あくまで記事を元にしたコメントをつくることだけに使います、と丁寧に説明してまわりました。

ー奈須川さんは懸念点というか、最初に何を考えましたか?

奈須川:リスクをどうやって最小限に抑えるかということと、ユーザーにとって役に立つものにするという2つの軸が重要だと思いました。他社でもニュースにコメントをつける機能はあるので、どう差別化を図るか。サービスをつくっても全然使われないとか、面白くない、役に立たないというのでは意味がありませんからね。

ただ、理想形に近づけるためにどんなアクションが必要なのか、自分にはさっぱりわかりません。そこで、LLMにはどんな特徴があるのか、といった基本的なところからエンジニアに確認しながら作業を進めていきました。

ーリスク管理はハードルが高そうですね

奈須川:最終的には人の目でチェックするプロセスを用意しました。ただしチェックそのものの負荷を最小限に抑えるために、その前の段階で嘘を言わないとか推定無罪の原則を守るなどのルールを設定。誹謗中傷しないとか、人を傷つけないといったリスキーな要素をあらかじめ排除して、最後に人が読んでチェックする二重の体制を構築しました。

Gunosy 村田

媒体社、ユーザー、そしてGunosyの“三方よし”を実現

ープロジェクトが始動してβ版が出来上がるまではどれぐらいかかりましたか?

村田:ブラッシュアップしない状態のコメントが出てきたのが6月の時点でした。そのあと口調が安定しないなどの改善と、AIにキャラクターを持たせるかどうかなどの議論を重ねていきました。さらにUIの作成、マーケティング戦略などを練ったりしてβ版ができたのが12月。正式なローンチは25年の2月下旬でした。

ープロジェクトとして社内外問わずどんな価値を提供していきたいですか?

村田:社外に向けてBtoB目線で言うとテック企業として技術面でのプレゼンスを発揮することですね。最新のLLMを活用して実際のサービスをローンチできる技術力、開発力をプレゼンテーションする意味合いを含んでいます。さらにBtoCではユーザーに複数の視点を提供することですね。ニュース記事を読んで単に理解するだけでなく、さまざまな立場からの意見を目にすることでより深い考察の機会が得られるのではないかと考えています。

一方で社内に向けてはチャレンジングな姿勢をアピールしたい気持ちがありました。ここのところの施策がしっかりと実を結び、長期的なスタンスで成果を追う取り組みにもコミットできるようになりました。このタイミングで攻めのスタンスをしっかりと見せていこうと。

奈須川:ニュースってフロー的な情報ですよね。さらっと読むだけでひっかかることなく流れてしまうこともあります。でもコメントの補足により理解が進むことで、また読みたいという気持ちが喚起される可能性が生まれる。それは翻ると記事を配信してくださる媒体社様のためにもなるし、ユーザーにとってはいわずもがな理解が深まる機会になる。加えてこのサービスいいねって思ってもらえるというプラスメリットがあるんです。つまり媒体社様にもユーザーにも、グノシーのブランディング的にも良い。三方よしの実現ですよね。

ー翻ると媒体社様のためになる、というのは浅井さんにとっても追い風ですよね

浅井:間違いないですね。媒体社様側の反応を見ていて感じるのは、今回の新しい取り組みに対するユーザーの反応に興味を示しているな、ということです。AIのコメントと自分たちの記事の読まれ方にどういった関連があるのかフラットに関心をお持ちの方が多いんです。今後の動向が楽しみですというポジティブな声も多いので、いまの奈須川さんのお話はさらにプラスに働くと思います。

Gunosy 浅井

一方で記事を公に配信している時点で完成品なのでそれにコメントを追記するのは自分たちの記事に何か欠けているものがあるんじゃないか、と心配するご意見もいただきました。また自分たちが提示する解釈が変わってしまうことへのご懸念も一部で見られました。

ーこのあたりの問題を払拭するのは難しそうですね

奈須川:そういうこともあって割と早い段階で人の目で最終チェックするプロセスが必要だ、という意思決定をしたんです。記事に書いてあることを勘違いさせたり、誤認や誤解させては絶対にダメなので。

浅井:やっぱり人の目が入っています、というのは媒体社様からすると重要なんですよね。かつ奈須川さんのような経験豊富なベテランが陣頭指揮をとって編成を担当している、ということは特に強調してお伝えしています。安心感と信頼性が違いますから。

ー技術の面で苦労なさったことはありますか?

村田:エンジニア目線で言うとこのプロジェクト自体、正解がよくわからないんです。最終出力が記事に対するコメントなのですが、そのコメントを何をもって良しとするか私たちにはわからない。編成チームのみなさんとすり合わせしつつ、一般的にバリューのあるコメントの特性を実際の調査のもと抽出しました。最終的にはLLMを通して評価基準を出させたのですが、相当骨が折れる作業でした。

また普通のプログラミングなら例えばAを入れるとBが出てくる、といったことが確定しているのですが、LLMの場合はAと入れるとBもCもDも出てきたりするんです。評価基準と照らしあわせた上でプロンプトを変えた時、複数のコメントに対してどんな変化が起きたのかなど逐一確認しつつブラッシュアップしていくのが技術面で最も特殊なところでした。プログラミングの常識が通用しないという点で難易度が高かったですね。

ーコメントをつくる上では著作権の問題もありますよね

村田:法務と連携してアウトかオッケーかを話し合いで決めていきました。ただ、線引きをつくることよりも、私たちが著作権を意識しながら開発することのほうが重要なんです。事前に著作権にひっかかるような単なるコピーが発生しないか実験していたり、プロンプトのところでも著作権違反にならないようにと制約をかけたりしていますからね。最終的なシステムでも各情報を総合的に理解して独自の文章を作ってもらったりしていました。

ーあらゆる面からケアできている点は、Gunosyならではだと思います

浅井:ここまでやっているとは僕もはじめて知りました(一同笑)。びっくりしました。バックグラウンドが大事かなと思うので、媒体社様には法的観点からもちゃんと配慮を重ねた上でリリースしているサービスだと強調していきたいと思います。

奈須川:著作権はプロンプトや初期段階から踏み込んだアクションをしていましたよね。さらにリスクがありそうなデータ元はコメントを生成するときにあらかじめはじくように制限を入れていたので、リスク管理は比較的徹底できていたかと思います。

Gunosy 奈須川

インターネット本来の利便性や楽しさを復権させる

ー村田さんにとってはマーケティングへのチャレンジでもありました

村田:そうですね、難しかった点はバリューをユーザーに理解していただくことに尽きます。プレスを出すにしてもSNSで拡散するにしてもベネフィットが伝わりにくいんです。Yahoo!でもNewsPicksでも専門家がコメントを書いていますよね。この状況下でAIがコメントを書く意義をアピールするのはなかなか難しいと感じています。

ーAIがコメントを書くことのユーザーメリットを端的に言い表すと…

村田:中立性ですね。どんなライターでもオーソリティでも生身の人間である以上、コメントを書くときにはそれまでに歩んできた人生や過去の経験・体験からくるバイアスが一定かかってしまいます。でもAIにはそれがありません。どこまでもフラットなんです。

浅井:だからこそ難しいのはキャラクターとの兼ね合いですよね。

ーそういえば3人ほどコメンテーターのキャラが設定されてますよね

奈須川:昨日ひとり加わって4人になったんですよ。

村田:キャラクターを立てるかどうかについては最後まで議論が交わされました。中立性を押すならキャラはない方が良いという声があがる一方で、親しみやすさの文脈からキャラはあるべきだという意見も強くありました。最終的に複数のキャラを立てることでさまざまなコメントを提示していけば中立性は担保できるのではないかという結論に落ち着きました。さらにキャラの設定をあらかじめ公開しておくことでユーザーがコメントの背景を理解しやすくするといった工夫も施しています。

奈須川:キャラクターの数はそれぞれがカバーするジャンル、得意分野で決まっていきました。今後も増えることが予想されます。テストではスポーツのコメンテーターに政治やハードなニュースのコメントを書いてもらったんですが「負けるな」とか「応援するぞ」みたいな、かなり熱いコメントに仕上がったのが印象的でした(笑)。

Gunosy 村田

ー今後のAIとGunosyの共存共栄についてひと言ずついただけますか?

奈須川:いまインターネットはアテンション・エコノミーの台頭によってなかなか真実や役に立つ情報にたどり着きにくいんですよね。でもLLMは優秀なのできちんと正しい情報を見つけて拾ってきてくれるんです。今回のプロジェクトでAIと正面から向き合ってみて、上手く使えば役に立つ本当に便利なツールだなと実感しました。

初期のインターネットは集合知の魅力がありましたが、その良さがどんどん失われつつあります。そこを本来の姿に戻すというかインターネットの良さ、楽しさ、便利さを取り戻せるツールとしてAIは活用できると期待しています。AIコメンテーターの枠にとらわれることなく、可能性を拡げることでいろんなサービスを提供できるんじゃないでしょうか。

「情報を世界中の人に最適に届ける」というGunosyのミッションの中でもまだまだAIを活用してできることはあるな、と感じています。

浅井:AIコメンテーターをはじめwithAIプロジェクトから派生するコンテンツがユーザーにとっていいものであり、それが回り回って媒体社様にとってもいいものであり、もちろんグノシーのブランディングにも寄与する。その逆もまた然り、といった循環を生むためにどうすればいいのか常に考えていきたいです。

我々のやりたいことと媒体社様が目指すところは相反するものではなく、一致しているということをこれからも丁寧にお伝えしていこうと思います。

村田:今後はAIコメンテーターとはまた違った領域で新たなチャレンジを仕掛けていきたいですね。たとえば社員数が少なくて独自コンテンツをつくろうにも月1~2本が限界。予算にも限りがあり、なかなかスケールしないといったようなケースではAIの介在価値は大きいといえます。AIが記事をつくるよりも、プロフェッショナルな記者がひとりいるところで独自コンテンツを100倍も200倍にもブーストできるといった方向に生成AIのバリューがあるんじゃないかと期待しています。

また新規コンテンツ系でLLMの出力とグノシーのアルゴリズムを融合したサービスや機能についての構想もあり、これからの展開がますます楽しみです。

ーありがとうございました!

Gunosy 浅井 村田 奈須川

【profile・画像左から】

浅井さん メディア運営推進部コンテンツ開発G

大学卒業後、神戸新聞社の記者を経て株式会社ユーキャンパスにて法人営業の経験を積む。2022年Gunosyに入社。コンテンツ開発Gでメディアリレーション業務を担当している。

村田さん データサイエンス部 MLチーム

早稲田大学情報理工・情報通信 酒井研卒後の2020年、新卒としてGunosyに入社。Gunosy AdsのCVR推定ロジック改善を皮切りにエンジニアとしてのキャリアを積む。

奈須川さん メディア運営推進部 編成・運用G

NHK記者、Yahoo!、スマートニュース等を経て2023年、Gunosyにジョイン。豊富なメディア運用経験を活かして編成・運用Gでマネジャーとして活躍中。

投稿者 OjimaRyo